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ZATTOMee! ~研究者の投資blog~

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保存効力(防腐力)って強ければいいの?

化粧品試験シリーズ第3弾。

今回は保存効力試験に合格するのに必要な「防腐力」について。

物議を醸すタイトルですが、企業責任としてある程度必要だと思っています。

 

 

どうも。

ひーくんです。

 

 

今回は、「保存効力が強い場合のリスク」についての記事です。

 

開発担当者が抱えるリアルなジレンマになっておりますので、処方開発に従事している方は、一度目を通していただけるときっと役立つと思います。

 

 

 

一次汚染・二次汚染のおさらい

 

以前の記事でも触れましたが、化粧品汚染には「一次汚染」と「二次汚染」があります。

  • 一次汚染:製品そのものが汚染されていること(製造者に起因するケースが多い)
  • 二次汚染:製品を使用することで、菌が増殖すること(消費者に起因するケースが多い)

 

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図1 一次汚染と2次汚染の違い

 

このうち、保存効力試験は、二次汚染による被害を防ぐための試験です。

保存効力が一次汚染を対象としない理由としては、

・一次汚染は清掃等で改善が可能であるため、

・必要以上の防腐剤を加えないようにするため、の2点があげられます。

 

つまり、カバーしなくていい領域までカバーしようとすると、必然的に防腐剤の量が増えて、リスクが大きくなるよーってことです。

 

近年では「防腐剤フリー」を謳う化粧品も増えてきましたが、どのようなリスクが考えられるのでしょうか?

 

 

 

 

保存効力ってどこまで必要なの?

 
化粧品の品質劣化を防ぐために、保存効力が重要なのであれば、保存効力を十分に高くすればいいのではないか、という意見もあると思います。
この意見については、化粧品の品質管理という観点からすれば賛成ですが、企業として考えたときに生じるリスクが大きいことが問題となります。
 
 
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皆さんは、「薬剤耐性菌」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
病原菌が抗菌薬に対して耐性を獲得してしまい、従来の治療法では治せなくなってしまうケースです。
 
私は、薬剤耐性を獲得する原因に関して、強い抗菌剤を使用するとそれに耐えた菌が新しい耐性を獲得する、というイメージを持っていました。
 
 
しかしよくよく調べてみると、以下のような流れで耐性菌が生じるそうです。
  1. 耐性獲得のために変異を続けている菌は勢力をしては少数であり、通常であれば多数派の菌たちのせいで、病気を引き起こさない程度に抑制されている。
  2. 抗菌薬によって多数派の菌が死滅すると、少数派であった耐性菌が増殖しやすい環境となる。
  3. 耐性菌が病気を引き起こし、治療の難化・長期化などを引き起こす。
 
(こちらの内容につきましては、以下のサイトを参考にさせていただきました。)
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保存効力についても、同様の事態が起こりうるため、これを防ぐことが重要です。
そのためにも、強すぎる保存効力設計ではなく、適切な設定にすることが求められます。
 
また、保存効力を高める、つまり防腐剤等を増やすということは、
肌表面に存在する細菌叢にも悪影響を及ぼす可能性があり、ひいては肌へのダメージにも繋がりかねません。
 
このような事実に加えて、現代は欧米を中心に「〇〇 Free」の動きが強まっていますし、今後もこのトレンドはますます大きくなっていくことが予想されます。
パラベンフリー、防腐剤フリーなど。)
こういった社会的・国際的な大きな潮流に対しても、メーカーとして責任をもって応えていく必要があると思いますし、それが十分でないメーカーは今後も伸び続けることは難しいと思っています。
 
 
化粧品の品質管理は企業の重要な責任ですが、消費者の利益を守るためにも、保存効力は適切に(強すぎず、弱すぎず)設定しましょう。
 
 
 

他に保存効力を確かめる方法はないの?

 
今までに保存効力試験の重要性について書いてきましたが、実は保存効力試験を実施しなくても保存効力を担保できる方法はあります。
 
医薬品GMPでは、防腐剤の量と有効性のデータが揃っていれば、
そのデータを用いて、防腐剤の量によって出荷判定することを可としています。
 
 
とはいうものの、防腐剤の量と有効性に関するデータを収集するためには保存効力試験を実施する必要がありますので、結局のところ保存効力試験は必要になってきますし、過去に実績がない場合は実際の処方で検討した方が圧倒的に早いです。(笑)
 
 
しかも保存効力にも安定性などがあり、例えば水相ではなく油相に移行して失活してしまうケースや、他の原料や剤形、容器などとの相性によって保存効力が低下することも考えられます。
 
またバルク自体が保存効力を有する場合(例えばカチオン界面活性剤を含むトリートメントなど)には、従来量の防腐剤を添加すると保存効力が強くなりすぎるケースも想定されます。
 
実際、私が以前使っていた防腐剤で、水相に溶解して乳化しても、油相に入ってしまって保存効力が十分に発揮されず、防腐剤の配合量が無駄に増えてしまいそうになった、というケースもありました。
 
 
手間や時間はかかりますが、
化粧品の保存効力を適切に確認するには、微生物を用いた保存効力試験を実施するのが一番確実だと個人的には思っています。
 
 

★今日のまとめ★

  • 保存効力の担保は必須であるが、過剰な保存効力は避けるべき
  • 保存効力は試験して確かめるのが間違いない
ということです。
 
 
処方開発者のジレンマ、いかがでしたでしょうか。
始めたころは自分もきつかったですが、ある程度経験を積むと保存効力設計のイメージの基盤ができてくるので多少なり組みやすくはなると思います。
(想定しなくてはならない情報が甚大なのは変わりないですが…。)
 
 
次回は、保存効力試験の適用範囲とかについて書こうと思っています。
 
 
それではまた。