【記事紹介】量子計算機による処方検討が可能に?
量子コンピューターが化粧品処方を考えてくれる時代に…。どれだけこの時代を望んでいたか。
どうも。
ひーくんです。
今回は、気になる新聞記事があったのでそちらの紹介をしたいと思います。
2020年8月12日付の日経新聞に掲載されていた、「コーセーの美 量子計算で磨く」という記事です。
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要約すると、
- SNSを通じた消費者のトレンド変化のスピードについていくためには、現状の処方開発スピードでは間に合わない。
- 各原料が処方の官能評価に与える影響を数値化し、経験と勘に頼りがちな原料配合の時間短縮・効率化につなげる。
- 量子コンピュータによる「新たな官能の発見」を狙う。
- 研究者は開発者ではなく、評価者となるかもしれない。
ということみたいです。
自分はこの業界に入ってから、このコーセーさんみたいな構想をずっと持っていました。
処方の組み合わせを考えると、仮に30個の原料を入手したとして、単純に入れる入れないの組み合わせだけでも100万通り以上の組み合わせが考えられ、そこに配合量の検討を進めていたら全部の組み合わせを検討するなんて到底不可能です。時間が圧倒的に足りませんし、少し配合量を変えただけで、化粧品の使用感は簡単に変わってしまうからです。
しかし開発者である以上、自分で作った使用感は本当に最善のものなのかという疑問は残ります。願わくは、自分が構想したすべての組み合わせを検討したい、という思いを抱く開発者は少なくないのではないでしょうか。かくいう自分もその一人です。
そこで、原料情報をデータベース化し、その数値をもとに処方の性能をシミュレーションして数値化できないか、というのは開発業務に従事してからずっと考えていたことなのですが、コーセーさんがこんなにも早く実用化してくるとは…。さすが大手です。
これが実用化されれば、処方開発で行き詰った時も新しい着想が得られるかもしれないし、何より業務の効率化・検討の時間短縮につながり、開発スピードの大幅な改善が期待できます。
特に量子コンピュータによるシミュレーションは、データに基づいて客観的に処方検討をするため、過去の実績や常識にとらわれない自由な着想が大きな特徴となり、今までにない感触の発見や、従来の官能を別の処方で再現することでコストダウンにつながる、などといったメリットも期待されるのではないでしょうか。
ただし官能評価も単純ではなく、その原料を加えた時の情報だけでは官能と一致する可能性は低いと思います。
極端な話ですが、油剤が比較的豊富な処方に新しいエステル油を追加した場合と、油剤を最小限に設定した処方にエステル油を追加した場合とでは、エステル油の感触の出方に差があります。
原料そのものだけではなく、ベースとなっている処方によっても官能評価が変わってくる点は注意が必要なのですが、その条件を量子コンピュータでどう対処していくのかは楽しみなところです。
現状、処方開発の現場はどこのメーカーも勘や経験に頼っている面が大きいのは事実だと思います。しかしそれは勤務年数の長いリーダー職以上がなせる業であり、新人はそのような経験はありません。
そうなってくると、処方開発業務はリーダー不在では立ち行かない、新人は処方を考えることができるようになるまで、リーダー職の手足として業務に従事するしかない、などといった悪循環が生まれてしまう可能性が高まってしまいます。
こういった事態に陥ることのないように、経験などに頼らない客観的な処方開発も、今後の化粧品業界には必要になってくるのだろうと思います。
またあの構想に手を付けてみようかな、と思いましたので記事にしてみました。
それではまた。